Ⅵ 半身 - 2
※ 若干の性描写あり
「わたしね、治くんぐらいの歳のとき、ロンドンで絵の勉強をするのが夢だったんだ」
三十九度のぬるま湯がの声をふやけさせている。ほぐれた音はひとつひとつ温かな湿気とすぐに絡まり、浴室のすみずみにまできれいに拡散していった。陽の高いうちに浸かる湯船は、この場合、贅沢というより背徳だと思った。いいことではなく、悪いことだと。
澄んだ匂いのする乳白色のみなもに、の胸の先が潜ったり、顔をだしたりしていている。どうしたって話の内容より気になってしまう目の毒を、俺は、あのゴム製のアヒルを弄ぶことでなんとか散らそうとつとめた。指で胴を挟むと、オレンジ色のくちばしから湯がぴゅっと弱々しく飛ぶ。彼女の憧れたロンドン生まれの子どものおもちゃが、もうすぐ、二人のふらちな戯れの証人になるのだ。
「さっき、ターナーの画集みせたでしょう。イギリスは水彩画の生みの親なの」
「その夢、叶ったんですか」
「学部三年のとき、ちょっとだけね。でも、自分の身のほどを知った三ヵ月だったなあ」
「何もしないより全然いいですよ」
必死に興奮を押しとどめているせいで気のない相槌を打ってしまっているだけなのに、は「治くんって大人だよねえ」と俺の受け答えに感心したようにつぶやき、風呂の設定温度をもう一度下げた。水面が波立つ。二の腕を浴槽のふちにのせ、身を乗りだすように設定パネルをいじっているの、脇の下から胸に続く締まりのない白い輪郭。湯をはじく肩のまるみ。まとめた髪のだらしない後れ毛。は腕に頬をくっつけながら、俺を見上げた。
「治くんは夢ってある? 行ってみたいとことか、やってみたいこと」
手を伸ばさなくても触れあってしまいそうな近さに誰より触れたいひとがいて、将来の夢とか今年の目標とか、そんな健康的な標語をどうして思いつけるだろう。何を言っても釣りあわない。裂け目もほつれもない自分の丈夫さが、こんなときとても恨めしい。
「俺は……」
俺は今ここで、あなたを。まっしょうじきに、目の前のことしか考えられない、あるいはもう何も考えつけないけもののふりをして、俺は、の腰を引き寄せた。ちらちらと見え隠れする思わせぶりな赤をこの手におさめるために。ほんとうは、頭も理性もそれなりに働いていた。だけど、そんななけなしの思考と節操、何になる。脇に追いやっておいたほうがずっと気持ちが良い。俺はその誘惑に、いつも勝てないのだ。
俺の欲望はの好む水彩画みたいに繊細でもなければ淡くもない。たぶんそれをも分かってくれている。だけど、分かっていることと納得していることは少し違うかもしれない。こうやって言葉よりも体温を選ぶたび、俺は少しずつ、を裏切っていただろうか。の目に映る、のなかの俺のことを。
小さな浴槽のなかでは満足に動くことなどできなかったけれど、ほがらかに話したり笑ったりしていたがだんだんと無口になり、なんとも言えず眉を歪ませたり、あげく声を殺して首にしがみつかれると、俺はそれだけで腹の底を激しく揺すぶられているような快感にさいなまれた。膝の上にを乗せ、二人してぎこちなく目を合わせる。の両手が白濁の下に消えてゆく。そして、見えない俺の醜さを的確につつみこんだ。
「さん、……これ、入ってまう」
そんな、身も蓋もない宣告をしなければならないほど、ゆるやかな摩擦も俺にはたちまち逼迫した一大事になった。の細い肩をつかんで彼女を引き剥がす。そうでもしなければ、今にものなかに潜りこんで帰ってこられなくなりそうだった。
「あかん、俺、先に出ます」
「待って」
腰をあげようとして、に腕をつかまれる。一瞬、頭がふらついたのはのぼせていたからじゃない。俺をつかむその手以上に、の目が俺にすがっていたからだ。
「だいじょうぶ、いいよ、このまま」
「……え」
「自分でちゃんと、してるから」
俺の「え」はほとんど半べそをかいているような情けないうめきだった。何が大丈夫で何がよくて何をちゃんとしているって。の言葉を聞いても、なぞっても、うまく飲みこめない。そんなことよりも、太腿のかたいところにの一等やわらかなところが擦れていて、気が気ではなかったのだ。
「わたしを信じるの、こわい?」
湯のなかで、が久しぶりに笑顔を見せた。俺を安心させたいのか、混乱させたいのか。違う。それを見て安心するのも混乱するのも、きっと彼女の思惑ではなく、自分しだいだった。しがみつく手を振りほどき、自分のほうからをとらえる。それは俺のなけなしの抵抗だった。これから始まることに対する不同意の同意だった。不信も信頼も、この先にはない。大げさだろうか。いとしさなんて。
「俺がこわいのは、俺です」
いつも。いつも。いつも――
そう言うのがやっとだった。を浴室の壁にもたれさせ、俺は初めて、彼女のなかをじかに撫ぜた。いや、そんなあまっちょろい行為じゃなかった。穿つたび俺は、をちからの限り傷つけているような気がした。そして俺もに深く傷ついていた。このままでは二人、それまでの自分の形状を保てなくなってしまうのではないか。そんな痛々しい空想が、今ここで起きている比類のないできごとに絶えず追走してきた。
つい一時間前には、アッサムのミルクティーを飲みながら、無教養な高校生にウィリアム・ターナーの素晴らしさを語っていた彼女が、今は動物の交尾かとみまごう姿で乱れている。
ああ、来る。合図などなくてもにもその予感が伝わったみたいで、は俺を振り返ると、抜かないで、と彼女らしからぬ露骨な言葉をささやいた。言われなくてもそんなつもりは毛頭なかったが、俺はうなずき、聞き分けのいい男を演じた。タイル張りの薄青い壁の上で互いの右手を重ね、息を止める。二人の足もとに呑気に浮かぶつがいのアヒルが、ぼうっと黄色く爆ぜた。
は俺の半身になった。俺の理性は今こそ完全にぶっこわれた。
誰かとひとつになるということは、自分が半分になることなのだと思った。消えた半分はどこへ行ったのだろう。のなかに置いてきたのでも、彼女に奪われたのでもない。もう「どこにもない」のだ。あんなに削りあって、傷つけ、摩耗したから。
引き抜いた熱源には、油彩のような白がどろりと浅ましく付着していた。
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あの日、はロンドン帰りの疲れがまだ残っているようだった。それが思いがけず風呂場であんなことになり、いたずらに彼女を消耗させたのは明らかだった。ただ、先に誘ったのはだ。俺はベッドに辿りついても、を剥きだしのまま抱いた。抱きつぶしたと言ってもいいかもしれない。最後、は気絶でもしたみたいに眠りについた。俺は花の茎のような彼女のからだをまっすぐに横たわらせ、肩までたっぷりとふとんをかけてやった。さん、と耳元で名前を落とす。返事はなかった。
慎重に寝室の引き戸を閉め、ソファの上ののスマートフォンを手にとったとき、どうしてあんなに躊躇なくの過去を暴くことができたのか。俺たちがああしているあいだにも彼女のスマホには不在着信がひとつ入っていた。失われた半身の亡霊が俺をけしかける。凄まじいセックスを経験したあとで、そのときの俺は、を「他人」だと思うことができなくなっていた。
に度重なる電話をしていたのは、俺の睨んでいたとおり、彼女のかつての恋人だった。彼女がこの部屋で一緒に暮らしていた男が、今も彼女のすぐ近くにいる。連絡をとりあい、笑いあっている。俺が居る、となりの部屋で堂々と。
が生きている世界は、俺の生きている世界と思っていたよりもずっと遠かった。俺より何歳も年上だろう男と話して、何も噛みあわず、たまらなく虚しいと感じた。その虚しさが激しい嫉妬と結びつき、顔も知らないことをいいことに、俺はずいぶんと身勝手な言い分を喚き散らしたような気がする。
なんでもいい。壊れてもいい。の生きている世界に居るという確かさが欲しかった。平和なこの部屋や、小さなあの青い車のなかだけではなくて、の生活にとどろくような亀裂をいれたかった。侑のことを隠し通そうとしたのも、同じような屁理屈だ。支配しようとしたものが、の生活にかつてあったものか、この先あるかもしれないものか、その違いだけで。だけど、そんなめちゃくちゃな欲望、あっていいわけがない。ましてぶつけていいわけがない。分かっていても、納得できない。だとしてもだ。
謝りにいこう。のアパートへ、通りを駆け、信号を渡って。その先に何があっても、けっして悪あがきしない覚悟で。
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のアパートに着いた土曜の午後八時過ぎ、外の駐車場には彼女の青い車がなかった。それぐらいの行き違いなら予想はしていた。この一週間、とはひとつも連絡をとりあっていなかった。
二月の夜の下で一時間も待ってれば軟弱なあいつよろしく俺もきれいに風邪をひくだろう。そう思いながら、コートのなかのカイロを握りしめた。待つつもりだった、何時間でも。そんな俺の酔った決意は、ものの数分で廃棄されてしまったが。
車から降りてまもなく、は俺に気がついた。俺はアパートのエントランスの前に立っていて、が思っていた以上に大荷物だったことを見てとり、慌てて彼女に駆け寄った。夏の日、と再会した駅前のロータリーでの、高鳴りと緊張がうずまく感じをこんなところで思いだした。が荷物を抱えている。身のほど知らずの俺はまた、何か彼女のちからになれると息巻いてしまう。
「治くん? うそ……いつから」
「あ、いま、今です。ほんまに……」
「ごめんね、寒かったよね。すぐ開けるから」
「あの、それ」
「えっ……ああ、これ、このあいだのグループ展で出した絵なの。今日アトリエの掃除してて、ついでだから引き取ってきたんだけど」
「持ちますよ」
「じゃあ、はんぶんこ。ありがとう」
両腕にぶらさげていたキャンバスを入れておくような大きな袋をひとつ、は俺に任せた。重くはないがだいぶかさばるもので、踊り場で何度も折り返し五階までの階段をのぼるのは厄介な作業だった。
ずいぶんと遠回りをして、ようやくひと月ぶりに辿りついた彼女の部屋は、記憶のなかのそれとは奇妙に異なる雰囲気に包まれているような気がした。模様替えでもしたのか、家具の配置が変わっている。あずかった彼女の絵をリビングの壁に立てかけながら、俺はまたしてもあの再会の日の、初めてこの部屋に足を踏み入れたときの胸のざわめく感じを、漠然と思いだしていた。似ていると思った。あのときの、さみしさと。
「そうだ、治くん、チョコレート食べない?」
背後からの声がかかる。振り返ると、彼女はキッチンカウンターに立っていて、浄水を電気ケトルに注いでいるところだった。
「……チョコ、ですか」
「こないだ渡しそびれちゃったやつ。治くん、いっぱいもらったでしょう、バレンタインチョコ」
どうしてそんなふうに、あっさりと「こないだ」と口に出せるのだろう。心臓が軋み、張り裂けそうな息苦しさがつのる。あの日の失態。ひきちぎれたストラップ。金色の紐。苦々しい記憶のすべてをいっさい脇に追いやるような軽い言葉に、どうして胸を撫で下ろすことができるだろう。どれもこれも、けっしてなかったことにはならないのだと悟ったから、俺はいまここに居る。
「さん」
冷蔵庫を開けようとしていたの背中に、呼びかける。それでもは日常をすすめようとしたので、俺は少しむきになって彼女の動きをとめた。
「さん、ごめんなさい」
背中からを抱きすくめて、自分がまだコートを着たままだったことに気がついた。が引き剥がすでもなく、寄りそうでもない中立的なちからで、俺の腕に触れる。腕のなかで、彼女の白いうなじがはっきりと横に振れた。
「いいよ、あのときも聞いたよ。もう気にしてない」
「……なんでそんなこと言うん」
「わたしも悪いの。治くんの言うとおり、上から諭すようなこと言って……すごく、後悔してた。この一週間、ずっと」
窮屈そうにしながら、が俺に向き直る。あんなことがあって、あっさりと「もう気にしてない」と言われ、突き放された気がした。見限られてしまった気がした。けれど、俺を見上げるの目にはまったく冷めたところがなく、それはただの臆病な思い違いだったとすぐに気づかされる。は、俺を諦めたわけじゃない。はただとても、弱っているのだった。もっと叱ってほしい。責めてほしい。詰ってほしい。それがの本心ならば、甘んじてすべてを受け入れる。そんな覚悟をしてきた俺は、俺のせいでにそうするちからが残っていないという可能性を、ひとつも考えてはこなかった。
「もっとたくさん、話をしていればよかったね」
ぽつりとそう言って、はとてもかよわい手つきで俺の頬を撫でた。
「今からでも、遅くないかな?」
今からではもう遅いと思っていたのは俺のほうだった。思いがけずがくれたそのやり直しのチャンスは、がんじがらめの心臓の檻をいともたやすくひらいてしまった。
話をすることを意識して話をするのは、むずがゆく、難しい。
感情の肌理を、皺を、疵やひだを、誰かに伝わる言葉に孵すのはそれ自体が感情的に苦い作業だった。だけど今は、そうしなければならない。俺は今まで自分のなかでだけ取捨選択し、見ぬふりをしていた感情をにこわごわとひろげてみせた。謝りたいことも、知ってほしいことも、家族のこと、バレーのこと、とのこと、二人のあいだにある不安、自分のなかにある嫉妬心、後悔、定まったかたちも脈略もない、いびつなひとつずつ。熱い緑茶がマグカップのなかですっかり冷えてしまっても、は根気よく俺の話を聞いたし、俺もそうした。絵を描くこと、かつての恋人のこと、侑と話したこと。耳を塞ぎたくなるようなことも、すべて聞き洩らさないように。
「去年の十二月に、侑がユース候補に選ばれたんです」
電子レンジに一分かけたマグカップをふたつ持って、がソファに戻ってくる。水色のひとつを俺に渡して、は二人わけあうブランケットのなかにタイツ履きの両脚を忍びこませた。
「ユース……」
「まあ、日本代表の卵ですね」
「すごい」
の素直な反応に苦笑してうなずく。まあ、そうだ。あいつはすごい。十七年となりにいて、誰より骨身に染みる実感として、それを知っている。
「俺は選ばれませんでした」
十七年、当たり前にとなりに居たやつが、たったの五日間、となりに居なかっただけ。ただそれだけのことを今も、胸に秘めるようなやり方で抱えている。笑ってしまう。
「悔しいとは思わんかったんです、べつに。俺とあいつじゃメインでやってるポジションもちゃうし、チームや監督が求めてるものとの兼ね合いもある。単純な実力順やない、いろんなバランスを見て決まるもんやから」
今度はのほうが黙ってうなずく番だった。が温めなおしてくれたマグカップに口をつけると、よみがえった緑茶の熱がすきっ腹にじんわり染みわたった。毛細血管に血が通うように、熱のひろがりが飢えの存在を教える。思えばなんでも、いつでも、原動力はここにあった。
「……けど、そうやって、悔しくない理由をいっぱい持ってる自分が、悔しくてたまらんかった」
まるでと関係のない、と遠い場所にある、つまらない自分の話だった。侑はよく「悔しがれ」と俺に言う。その言葉のとおり一直線に悔しがる気持ちがないわけがない。だけど、まわりの人間が言う「負けず嫌い」の自分も、それだけが己れの本性だとはどうしても思えないときがある。性格なんてもの、ひとりにつきひとつまでって決まってるわけじゃないだろう。自分でも判別がつかない。この歪んだ悔しさの正体が、諦めの良い自分なのか、それとも悪い自分なのか。
「……なんのこっちゃって感じですね。なんの話でしたっけ」
我に返るように顔を上げると、の苦しいぐらいまっすぐなまなざしにつかまり、ぎくりとした。のなかにもうひとりの自分が居た。反射したのではなく、彼女のなかに伝染し、浸透したうりふたつの自分が。
「治くんが大切にしているものの話」
誰かがひとつになるということは、自分が半分になるということ。
いやおうなく自分を削り、相手を削るものだと思っていた二人きりの行為は、だけどそんなに減ってゆくばかりの営みではないのかもしれないと、こんなときに思いなおす。
あっけらかんとは俺の吐露の意味をとらえ、俺から視線をはずして緑茶をすすった。ふう、と湯気を散らすようにいちど息を吹いてから。
「わかる、なんて言ったらいけないのかもしれないけど、わたしもあるよ。色んな言い訳を探して、自分を慰めないとやりきれないようなとき。絵を描いていない自分なんて考えられないのに、絵を描くたび、自分を嫌いになってしまったり……」
ずいぶんと前、まだのことを「先生」と呼んでいたとき、今まで二人がひとりで考えてきたことが、まったくかけ離れた道の上で重なりあうのかもしれないと、思ったことがあった。分かるかもしれない、と。ひとつとして同じ人生はなく、同じ経験もないのに、ひとは共感しあう能力をもっている。それは幸福ないい加減さなのかもしれない。めでたい思い上がりなのかもしれない。そもそも自分がどんな道を歩いていて、どんなことを感じてきたのか、自分という括りのなかにも謎が溢れていて、分からない。誰かを見つけて、その誰かのなかに自分を見つけて、初めて気づくこともある。いま、このときのように。
「消えない気持ちと、どうやって付き合っていくかなんだよね」
の脚がするりとふくらはぎにこすれる。が腰をよじり、ソファのうしろの掛け時計を確認したせいで、二人の膝の上のブランケットがやや崩れた。おそるおそる、俺もの視線をたどる。夜はいつのまにか加速して、もう十時をとうに過ぎていた。
「……あの」
まだ、帰りたくないです。口のなかにまごついた言葉は、の明るい声にあっさり遮られた。
「お腹すいちゃったね。こんな時間だけど、なにかつくろうか。あったかいもの」
が時計を気にするとき、たいていそれは、俺に帰宅をうながす一歩手前のふるまいだった。けど、今日は違う。今日はまだ、帰らなくてもいい。のほうから別れを繰り越してくれたことが、そんなささいな提案が、たまらなくいとしさの琴線に触れる。気づくと、ブランケットを抜けだして立ち上がろうとしたの腕を、引き止めるようにつかんでいた。ほそっこい腕。つかむだけで、ここに深く俺を刻印できてしまいそうで、そんな幻想をいだく自分をいつも危うくて弱いと思った。
「さん、待って。あとひとつ」
真空のような数秒間を肺の奥深くまで吸いこみ、を見上げる。
あとひとつ、その先の言葉を待っている不安げなを見ていると、俺はまた彼女のなかの俺を裏切ってしまうのだろうな、という予感がした。それはまだとてもおそろしいことのように思えたが、今度は、あんな破滅的なやり方ではなく、いつくしんで壊したい。壊してまた、のなかに、新しい俺を一から積み上げてもらえるように。
「あなたを愛してます」
消えない気持ち。消えてしまった半身。もうひとりの自分。俺の夢。目標。行ってみたい場所や、やってみたいこと。……
息を呑んでみひらいたの目のなかに、崩れる一歩手前の俺が揺れている。また、泣かせてしまった。だけどもう、それは悲しくてやりきれないような亀裂ではない。空っぽの腹の底にただひとつ残った遅まきの告白が、蔓のようにに絡みついてゆく。けっして逃げないで、受けとめて。
俺が大切にしているものの話なら、その締めくくりにはどうかあなたが居てほしい。